ガイチジャーナル

博打を、興行を、画面の中を、時々語ってみる
今日買った本
病院帰りにこの本を買ってきた。筆者の片岡さんは増税後のV字回復を否定し続けて来た数少ない経済アナリスト。リフレに再分配は必須であるという日本ではレアだが海外では主流である財政リベラルの方である。今度の連休にジックリ読みたい



| ガイチ | レビュー | 14:34 | comments(45) | trackbacks(0) | pookmark |
ダイヤル『S』を廻せ
個人的に今年出た書籍の中で最大の収穫は本書であった。

本書「レッドパージ・戦後史の汚点」は、戦後あったレッドパージがGHQ主導ではなく実は当時の吉田茂内閣が率先してやっていて、しかも当時の共産党が政府に唯々諾々と党員名簿を差し出し、それを元に政府がパージしたことを明らかにしている。虎(米)の威を借る狐にはいつの時代も要注意だと本書は改めて警告を発している。

中でも本書最大のスクープとは、団体等規正令を理由に当時の日本共産党が党員名簿を国に自分らから提出しその名簿が元になってレッドパージが行われたという事実だ。この事実を知った上で国鉄三大事件を見直すと見えてくるものもあろう。現在のR東海のドン葛西の権力の源泉は、言うまでもなく国鉄民営化、つまり労組潰しが彼の権力のルーツである訳だが、労組と国鉄そして分断工作といえば、先に触れた下山事件等の一連の国鉄事件が発端である、勿論そこに赤狩りも加わる訳だが。今の葛西王朝時代を考える上でも、明神勲氏のこの書
は重要に資料になろう。また松本清張が「全て悪いのはGHQ」という説を頑なに押し通した事情も本書を通した視点で見返すとよく判る。このスクープの衝撃は、過去にあった出来事の発掘というより現在我々の前に横たわる諸問題の根底にあるものをも浮き上がらせた、という所にあろうかと思う

戦後、時の日本政府はマッカーサー書簡を錦の御旗にして拡大解釈と過度の忖度を繰り返しレッドパージを治安維持法と同じ様に見立てて利用した。そしてそうした政府の意向に野党側は表では対立を装うも、裏では組織防衛の為に前線に立つ善良な個人を売り飛ばした。振り返って2013年冬、悪夢の再循環がこの国で起きない事を切に願う
| ガイチ | レビュー | 18:35 | comments(8) | trackbacks(0) | pookmark |
【映画鑑賞アーカイブ】十三人の刺客
丹波哲郎が亡くなった。残念なニュースだ。先月、当日記では「丹波に痺れる」と題して日本を代表する“名優”丹波哲郎の素晴らしさについて触れたがそれから一ヶ月も立たぬうちにこの様な報を聞く事になろうとは…。ただただ残念でならない。

生前、丹波哲郎=名優、と評すると怪訝な顔をされたもんだが私はこの自説を曲げたことは無い。丹波哲郎こそ日本を代表する名優であると確信している。まず役柄の幅広さ、晩年は同じ様な役回りばかりで止むを得ずステレオタイプな役ばかりを演じざるを得なかったが、若き頃の丹波の出演作の幅広さにはただただ驚かされるばかりだ。ニヒルな殺し屋、精悍なサムライ、人情味溢れる刑事に妖気漂うヤクザ役。同じ俳優が演じているとは思えないその幅広さ、演技していますと言う事を殊更強調しないからこそ、逆にその演技の力に私は圧倒されるのである。今、私は名演技してますよ、なんていう顔されて演じられるほど見ている方にとってたまらないものは無い。丹波の凄さは正にそうした名優然とした素振りを微塵もさせないで、飄々と演じ切るところにある。

気付けば日本を代表する名作に必ず顔を出している。圧倒的な存在感を醸し出し、丹波の代わりを務められる役者はついぞ登場しなかった。こんな凄い役者を名優と呼ばずして何と呼ぼうか。まぁ大霊界なんていうお茶目な映画も作ったりしちゃいましたが、某新興宗教に比べれば可愛げあるもんなぁ、そこが丹波の魅力でもあったしね。

プライベートでは後進の指導にも力を注ぎ「丹波道場」を自費で作り若手俳優を育成したり、外国映画にも積極的に出演、また豪放磊落な性格として知られ細かい事には気にしないおおらかな性格で人々を楽しませた事も丹波を語る上で忘れてはならない事だろう。先に亡くなった奥さんを心から愛し晩年はその病弱だった奥さんを一人きりにするのが嫌なので長期ロケを嫌っていたと言う逸話を聞くにこの人の懐の深さを思い知る。

今一度、名優丹波哲郎の死の報に触れ、今はただそのご冥福を心からお祈りするより他は無い。これから追悼の意味も込めて東映時代劇の最高傑作である「十三人の刺客」を見る事にしよう。この映画での寡黙な丹波に今宵は痺れる事としたい。 <2006.9.25記>
| ガイチ | レビュー | 12:04 | comments(5) | trackbacks(0) | pookmark |
【読書アーカイブ】追悼 城山三郎
作家・城山三郎氏が亡くなった。城山氏と言えば「落日燃ゆ」「官僚たちの夏」「もう君には頼まない」「男子の本懐」など気骨溢れる政財界人を丹念に描いた力作や、社会的に封印された事件の掘り起こしたり、または市井の人々を優しい視点で描いたりと、本当に視線、視点が常に平たい素晴らしい作家であった。言うまでもなく私も大好きな作家さんであり、高校時代から今に至るまで城山作品は私の愛読書であり続けた。

その中でも一昨年にハードカバーで出た城山三郎戦争文学集は白眉の出来であったと思う。私は、一昨年末に文庫本化の際に全てをまとめて買ったのだが、余りの面白さに買ったその日に徹夜して一気に読破してしまった。戦争を知らぬ若輩の私にも胸に迫り来る内容であったが、特に第1巻である「硫黄島に死す」は、涙なくしては読み切る事の出来ない素晴らしい短編が収録されている。中でもイーストウッドの硫黄島2部作では描かれなかったある名も無き日本の少年兵を描いた「草原の敵」が読み手サイドに問うてくるその切迫感は心を捉えて離さない。

生前の城山氏は、個人情報保護法案を通過させようとした小泉純一郎前首相に対して烈火の如く怒り「もしこの法案が通るなら『言論の死』という碑を建てて、そこに小泉純一郎首相と全賛成議員の名を刻む」と抗議したのは有名な話である。城山氏と言えばその風貌から想像できないような直情溢れる気骨の人であり理不尽な事への怒りを忘れぬ『志』の人であった。衛星放送のニュース番組で小泉首相の靖国参拝に抗議、直言していた姿が氏の生前を見た最後になった。そんな城山氏が亡くなり、今日になり国会では殆ど騒がれずに「密告義務法」という個人の自由を著しく侵害する様なトンでもない悪法が民主党の賛成も得て衆議院をアッサリと通過してしまった。

この法律の建前は、テロ対策の一環としてマネーロンダリング防止の観点から、その容疑であればなんと警察が裁判所からの令状なしで立ち入り調査が出来るだけでなく、司法書士や保険会社にクレジット会社、貴金属業者など指定された業種の人は、犯罪の疑いのある取り引きをしていると思ったら関係省庁に通報しなければならない『義務』を負う法律であり、しかも通報した事業者はその事を顧客には黙っておくという法律なのである。つまり我々はいつ何時誰かに密告される危険を孕みながら生活するハメになる。何とも嫌な世の中であるが、個人情報保護法に身体を張って反対した城山氏がこの法律が殆ど無抵抗で通過していく様を見たらば、心の底から悲しみ、そして怒りに震えるであろう。

<2007.3.24記>
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【読書アーカイブ】冬の花火
評価:
渡辺 淳一
集英社
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Amazonおすすめ度:
中条ふみ子の鮮烈な人生!

渡辺淳一と言えば、今や日本で一番売れている官能小説家であるが、彼の初期の頃の作品は、本当に心に響く小説が多かった。中でも私が大好きな小説は「冬の花火」という天才との誉れ高かった女流詩人・中城ふみ子の短すぎるその一生を綴った伝記だ。この当時の渡辺の筆致は実に繊細でいて、優しさに溢れていた。戦後の混乱期に一瞬の輝きを見せた中城の、その心揺さぶる詩を随所に挟みながら、熱情に身を委ね心の赴くまま奔放に、そして大きな代償を払いながらも懸命に生きた彼女の「生」を肯定的に描く渡辺の筆力は、初読当時18,9の私には刺激的であり、文句なしに私を圧倒した。中城の生き方にそしてそれを描写する渡辺淳一に、私は大いに感銘を受けたものだ。

そんな才気溢れた小説家であった渡辺淳一も今や出来の悪い官能小説家である。昔からのファンとしては本当に残念でならない。別にエロに走る事を悲しんでいるのではない。肝心要なエロのシーンが全く面白くないから問題なのだ。何せ読んでいても全然勃たないんだから、ある意味官能小説としても欠陥だわね。まぁ女性向けに書かれているといわれればそれまでだが、この人の書くエロのシーンに艶が無いのは如何ともしがたく。まるでティーンエイジャー向けのハーレクインロマンスみたいな気の抜けたエロ小説ばかりを生み出し続けている割には、そのくせ私の好きな作家である古川日出男渾身の傑作である「ベルカ、吠えないのか?」が直木賞候補になった時など、その選評として「小粒な作品で、小説の域に達していない」等とほざいているのどうなんだという話である。才気ある人が才に溺れて枯渇していく様を見るのは忍びないものだ
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【読書アーカイブ】 彰義隊
評価:
吉村 昭
新潮社
¥ 740
Amazonおすすめ度:
著者の幕末維新史の最終作品にして最後の歴史小説
数奇な運命、時代に弄ばれた輪王寺宮能久親王(りんのうじみやよしひと)
動乱の時代に翻弄された皇族の生涯

我が敬愛する吉村昭氏の「彰義隊」吉村氏お得意の丹念な取材に基づき、決して奇麗事では無い歴史の、そして人間の残酷さをそこから炙り出している。淡々とした筆致で描き出すその吉村氏の冷静な視点に感銘する。彰義隊という明治維新の中で葬られた存在を基点にし歴史の闇を鮮やかに照らしている。

吉村さんの書く歴史モノは、読む者に変な高揚感を与えないのが素晴らしい。この本もそうだが、歴史に埋もれた事実を掘り起こし、静かな視点でそれを炙り出していく。彰義隊とは明治の初期に前の将軍である徳川慶喜を警護する為にのために旧幕臣である渋沢成一郎や天野八郎らにより結成された旧幕臣等による尊王恭順の有志組織。この本はその彰義隊の行方というよりも殆ど歴史の中で語られる事のなかった、彰義隊の精神的支柱であった上野寛永寺山主の輪王寺宮能久親王の苛烈な人生を描いたもの。明治維新とは何かを歴史の裏側から照らし出す好著だ
| ガイチ | レビュー | 15:50 | comments(5) | trackbacks(0) | pookmark |
【読書アーカイブ】バカをあやつれ
評価:
戸梶 圭太
文藝春秋
¥ 1,500
Amazonおすすめ度:
これが下流社会か?
激安野郎共の宴
見捨てちゃったんですか?べつにいーけど。

戸梶ワールド全開のおバカなミステリー。戸梶らしい皮肉効きまくりの素晴らしい小泉・安倍賛歌小説です(いや冗談ですよ、冗談)

話の内容はと言うと四国の田舎町に警察署長として赴任した超エリート警察官僚と、幼い頃、この街にいた幼年期に壮絶ないじめ体験を受け、それを生涯の恨みとして抱える町長が、この町を“この世で最低最悪の下層社会”にするプロジェクトを開始していく…という話。真面目な人が読んだら卒倒しそうだが、とにかく最初から最後まで、戸梶ワールドで貫かれている。 軽く読むには最適の戸梶本だ。
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劣化しているのは誰なのか
評価:
香山 リカ
講談社
¥ 735
Amazonおすすめ度:
自己中心的になった
著者自身と出版社の劣化+本書の読者も「劣化」
著者自身と出版社の劣化

最近、神戸事件の本を読むのをきっかけにしていろいろな犯罪ノンフィクションモノを手当たり次第に読み始め、勢い余って、少し小難しい社会学の本なんかも手を出しているがそこで気になったのが、精神科医である香山リカの見るに耐えない崩壊振りである。

まぁプロレスファンでもある私としては、例の全日からノアに移行するときの三沢へ対する失礼な発言の数々を読み、この人への不信感は増大していたが(笑)、本職の方でもここまで劣化しているとは思いもよらなかった。

この間図書館で目にした最近の彼女の寄稿文を読んで驚いたのなんの。急激な右旋回というか、いつの間にか石原慎太郎とかあの辺と同じこと言い始めていてビックリである。まぁ人間は変節するものである。変節する事自体を私は否定しない。でもねぇ。正に羊の皮を被った狼とは、彼女みたいな事を言うのだろうか。しかしホンの6,7年前までは、こんなにマッチョな事を言うとは思えなかったんだがなぁ。いつの間にかこの間この日記でも紹介したあの「人間力」とかを啓蒙するとか言う国民運動なんかにも参加していて、経団連なんかの太鼓持ちをやっているのには驚きしかないう。まぁ人間ここまで変われるのかと、ある意味では敬服致しますがね。

そんな彼女の最新作が「なぜ日本人は劣化したか」だそうである。タイトルからして読む必要性を感じない『ジャンクブック』の典型である気がするが、劣化したのは日本人じゃなくてあんただろう、と言う皮肉の一つでも言いたくなる。ブックレビューによると、例の「ゲーム脳」まで肯定しているとか。呆れてモノが言えないとはこの事だ。あんな似非科学の極地みたいなヨタ話を香山リカが肯定し始めようとは、一体彼女の中で何が起きたのか?いや元々そう言う素地があったにも拘らず、コーティングしていたものがはがれて素の本性が剥き出しになっただけなのか?何とも不可解なこの変節振りに、私はただ呆然とするしかない。

しかし何が彼女の磁場を狂わせたのだろうか。まぁこの間、教育テレビでジャイアント馬場の思い出を語る彼女の自己愛に満ちた表情と語り口を見ながら「この人、どうしちゃったんだろう?」とは思っていましたがねぇ。
| ガイチ | レビュー | 15:45 | comments(2) | trackbacks(0) | pookmark |
財務省権力の源泉は?
評価:
落合 博実
文藝春秋
¥ 550
Amazonおすすめ度:
徴税機関の迫力と凄み
新聞記者のネタのお蔵だし
官の内在的論理とその行動

過日、CSの日本映画専門チャンネルでは伊丹十三監督映画作品を特集していた。私にとって伊丹監督といえば「お葬式」そして何と言っても「マルサの女」だろう。第1作では山崎努の絶品な小悪党振りが存分に楽しめ、第2作では三国連太郎のワンマンショーを堪能できる最近の日本映画にしては稀有な娯楽映画のシリーズとなった。伊丹十三のその才の輝きを如何なく鑑賞出来る見事な連作である。伊丹十三といえば緻密な取材に基づくその精緻な脚本作りに定評があるが「マルサの女」製作時には徹底的に国税を調べ上げたという。ただ実際にマルサと呼ばれる部署はあるにはあるのだが、映画のように次から次へと事件を担当し解決していくという部署ではないという。その辺は伊丹流のアレンジだろう。

民主党が政権をとってから「ショー的要素」も満載して始まった事業仕分け。小沢一郎はこのショー化に大して否定的で「こんなもの、決算委員会でやればいいじゃないか」と言っていたそうだが、この事業仕分け作業の背後に財務省がいるというのは、与野党共に認めているところでもある。日本では旧内務省と財務省の2代権力がしのぎを削りここまで官僚統制国家を運営してきた。戦前戦中そして戦後、その体制は未だ変わっていない。その財務省の権力の源泉であるのが徴税、正に国税である。さてその国税について論考したもので最近出た本で白眉の作品がある。元朝日新聞記者である落合博実氏が出した「徴税権力」という本がそれだ。上にあげたマルサの真実も描きつつ、今までマスコミ的に明らかにされる事のなかった国税庁の内実を長期にわたり取材していた筆者が、その全てを詳らかにしたのが本書である。兎に角読んでいて「ここまで書くか!」と叫ばずにはいられない程、詳細な内容が描かれている。国税に陰に陽に圧力を掛ける政治家や国税と検察の闘い、そして創価学会と国税の綱引き、そして財務官僚や国税批判をしたものへ圧力を掛けるように税務調査に入る狡猾さの描写など、正にタブーなき衝撃の事実が連続して書かれていく。最近読んだ中でここまで面白かったルポルタージュはそうはない、とにかく凄い本だ。

金丸信の脱税事件摘発から芸能人や有名人らの脱税を見つけ出す方法、そして国税が権力化し、己の力を誇示するカのように「国策捜査」をしていく横暴さ、さらには政治権力や宗教団体への弱腰の姿勢など、検察、政権与党に次ぐ権力組織である国税の実態を白日の元に曝け出している。とりわけこの本で面白いというか凄いなと思うのが調査部と呼ばれている部署の仕事振りだ。この間林家正蔵が脱税で摘発を食らったが、もしかしたらこの国税の調査部が暗躍したのかもしれない。彼らはテレビのバラエティー番組などである豪邸訪問やお宝発見などの番組は、必ずチェックしていて、それを個人別にファイリングしてデータとして保存しているという。また圧力を掛けてきた政治家などの名もファイリングしているそうだ。この本の中ではそう言うことに縁遠そうだった小泉純一郎の名も出てきて驚かされるが、とにかく最初から最後まで驚きの連続で飽きさせる事なく読ませてくれる第1級の作品だ。


| ガイチ | レビュー | 15:40 | comments(3) | trackbacks(0) | pookmark |
【観劇アーカイブ】JOKER
舞台は初日、中日、最終日を見て、初めて評価が下せると、有名な劇作家が言っていたのを思い出すが、チケット入手困難なこの舞台でそれを果たすのは不可能だろう。初日に行くという行為は非常に危険が伴うが、初日に漂う独特の緊張感もこれまた観劇の醍醐味でもある。ただ出来れば中日辺りに見に行きたかったのが本音であるが、私のスケジュールの都合上、今日しか日が無く、止むを得なかった。一緒に見た友人は、中日にも行くそうだが、初日との違いが楽しめるだけに正直うらやましいなとも思う。

さて明石家さんまである。私の大好きな芸人さんだ。ただ私の大好きな明石家さんまは、テレビの中の『スーパークオーターバック』的な司会者の姿でなく(もちろんそういうさんまも好きなのだが)舞台で見せる非常にストライクゾーンの狭い笑いを追及する芸人・明石家さんまなのである。

私が思う明石家さんまという芸人は、本来は極めてレンジの狭い笑いを好むタイプの人である。その笑いのタイプは見る人を選ぶ、という言い方が正しいかもしれない。テレビの中の明石家さんまは、あくまで『テレビ仕様』しかもその仕様を徹底的に洗練させている超人でもあるが、本来さんまが志向する笑いのタイプは、簡単に言うとクスクス笑いがさざなみのように会場を覆っていくまるで低温ヤケドの様な『冷静な笑い』である。

これまたチケットの入手が困難で、いつもヤフオクやダフィーにお世話になっている毎年恒例のさんまが構成演出主演を担当するコントショーなどは、そうした笑いのエッセンスがつま先からテッペンまで詰ったモノで決して誰しも受け入れられるモノではない。その昔、なんば花月でさんまが漫談をしていた時に、余り受けない会場で一人だけ受けまくって笑っていたのが関根勤だったという逸話もあるが、カンコンキンシアターでこれまた濃い笑いを提供し続ける関根勤と明石家さんまは、私の中では同じ種別に区分される。その対極が、この間リーダーを亡くしたドリフターズに代表されるような笑いであろう。

今ではネタ番組として、コント番組として、第一線という評価がされているドリフだが、全員集合開始当時は、テレビサイズに舞台を合わせたことで、結構辛辣な評価が多く苦労していたのは有名な話だが、さんまや関根勤は、舞台をテレビサイズに合わせるのでなく、萩本欽一が開拓者として築いていったテレビ的な笑い芸を発展させ洗練させ探求し、舞台と切り離しを図っていったのが大きな特徴ではないかと推測している。笑いをテレビに根付かせたのは、ドリフ的手法と萩本欽一的手法の二つの軸が互いに切磋琢磨して磨き上げていったと私は思っている。

だから彼らは、決してTVの中では舞台で見せる笑いを展開しない。テレビ芸と呼びたい熟練された話芸で番組を作り上げる。TVで見せない笑いというのを簡単な例として出すならば、例えば急斜面の屋根を上る男がいる、その男は必死に登ろうとするが、足を滑らせてナカナカ上手く登れない。懸命にもがいて必死になる様を画面が写していると、引きの絵になり、急斜面かと思われていたその屋根が単なる平坦で、懸命にもがいているのは演技でした、というオチが付く。普通ならそこで笑い声が入ってオシマイ。それがフツウの作りだが、TV的でない笑いとは、そのオチが付いた後も延々とその姿を映し出し続けて、男が必死になる様を必要に追い続ける。そしてその延々と写し続ける姿を見ている方が「馬鹿だなぁ、いつまでも、そんなに必死になって」といういう感想を持って笑いが起きる。世間ではそこで笑うのはごく少数だろうし、そういう笑いを好むのも少数だ。普通なら最初のオチの段階でオシマイだし、それがTV的な『分かりやすい』手法である。さんまもトークではそういう手法を取り入れ笑いを起こすが、舞台ではそういう手法は殆ど取らない。

最大公約数を求めなければならないTVと最小公倍数を追求する舞台。どちらが上だとか下だとか言うのはナンセンスだが、好き嫌いはあるだろう。私はどちらも好きだが、当然お金と時間を費やして見たいのは後者、つまり最少公倍数である。

物凄い前置きが長くなったが、数年前に公演した「7人くらいの兵隊」の続編的な話である今回の「JOKER」は前回公演同様、生瀬勝久脚本、水田伸生演出のコンビによる、第2次世界大戦中の兵隊を舞台にした話だ。

年に一度だけ船が着く島に閉じ込められた部隊が脱出計画を練っている。その計画は慰問団の芸人のフリをしてどうにかしてその船の中に潜り込もうという物だ。ところが、日夜隠れて芸の特訓に励む彼らに情報がもたらされる。どうやら部隊の中に脱走しないよう監視するための「スパイ」がいるというのだ。さぁそこから話が広がって…

というのが概ねのストーリーだが、もちろん戦争の悲惨さとか現在の日本の状況も念頭に置いた生瀬の脚本だとは思うが、私が思うに生瀬の真の狙いは、洒落が全く通じない過酷な状況に置かれている中に『芸人・明石家さんま』を放り込み、そこでどんな笑いが生まれるのかという、ある意味実験色の強い狙いではないかと思うのだ。前作でも同じようなテイストを感じたが、今作では更にその状況を極限にまで設定し、その中で『明石家さんま』の笑いが成立するかという過酷な実験ではないかと。

で、結論から言えば、その狙いはスレスレの形で成功している。笑いはどの場でも成立する。それは逆説的に言えば、笑いの成立しない場は無い、笑いにタブーも限界も無い。笑いとは素晴らしいのだ!という賛歌にも読み取れる。初日だけあり、トチリやぎこちなさ溢れる舞台だったが、温水洋一や生瀬本人など芸達者が沢山いる中で、生のハプニングには滅法強い明石家さんまがいるだけにそういう不安定さも笑いに変換出来ているのはいつもの様に見事としか言い様がない。小栗旬や市川実日子などはまだまだギコチナイ感じだが、楽日になれば相当変わる感じの予感も漂う。

この2作で「実験」を行った生瀬とさんまのコンビ。是非ともこの実験の成果として、ガチンコの喜劇を次回は期待したい。

2004.3.29 ル・テアトル銀座にて


「JOKER」
作・出演:生瀬勝久 演出:水田伸生(日本テレビ)
出演:明石家さんま、小栗旬、市川実日子、山西惇 他
| ガイチ | レビュー | 15:33 | comments(7) | trackbacks(2) | pookmark |
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